『時間は存在しない』。
1 時間
『時間は存在しない』を読んでみたけれど、ものすごくよい本なので激しくお薦めしたい。時間の存在については、物理学あるいは哲学においてしばしば議論されてきたテーマである。
2 物理学
この本の前半を読めば、物理学的な経緯を整理することができる。近代科学では、ニュートン的な絶対的な時間が存在するとされた。
しかし、アインシュタインの相対性理論により、時間や空間(時空)は相対的なものであるとされ、ニュートン以来の常識が覆された。
相対性理論とは別に、量子力学という物理学における重要な基礎理論がある。
この宇宙を構成するものは何なのか。
どんどん分割すればいずれ最小単位に行き着くとすれば、宇宙のあらゆるものは量子で構成されていると言えるだろう。
そんなミクロの視点で物理現象を説明しようとするのが、量子力学の分野である。
3 時間の矢
一般的に、時間は過去から現在、そして未来へ向かって一方的に、不可逆的に流れているとされている。いわゆる時間の矢である。
もしこれが正しいのであれば、それはなぜだろう。
なぜ時間は、未来から現在、あるいは現在から過去へ逆流しないのだろうか。
よく言われるのは、熱力学第二法則である。
熱いものから冷たいものへ熱が流れることはあっても、その逆は起こらない。
エントロピーは増大することはあっても、減少することはない。
本当だろうか。
常に成り立つ永遠不変の真理なのだろうか。
4 最新の物理学
この本は、最新の物理学の理論(量子重力理論)を使って、上記の常識を激しく揺さぶるものである。最新の物理学理論で日本でも有名なのは超弦理論だけれど、著者はループ量子重力理論の提唱者である。
この世界を物理学的に説明するのに、時間という変数は必要ないというのだ。
もしそうであれば、なぜ人という生物は時間を認識することになったのかを説明しなければならない。
この本はそんな試みの一つである。
人間を科学するだけでなく、人間が認識できない別の宇宙、別の物理系の存在をも示唆する。
5 ミクロとマクロ
ミクロの視点とマクロの視点で、別のものが見えるというのは、物理学に限った話ではない。科学や学問においては、この二つの視点を自由に使える能力が必要になる。
この本を読んで、それが非常におもしろいと改めて感じた。
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