第30条【元大統領の地位】、第31条【暫定大統領又は副大統領の権限】、第32条【大統領の特別権限】
第4章【政府】
【共和国大統領】
第30条 大統領はその任期が満了した日に退任し、新たに選出された者が就任する。この任期を全うした者は、直ちに、権利として、元共和国大統領としての公式の地位を取得する。
この地位により、第61条第2段、第3段及び第4段並びに第62条の規定が適用される。
空位によって共和国大統領に就任した者、及び弾劾裁判で有罪判決を言い渡された者には適用されない。
元大統領が公的資金から報酬を受け取る職務に就いた場合、その職務を遂行する間は日当の支給を停止し、いかなる場合も特権は維持されるものとする。ただし、高等教育、中等教育及び特別教育における教職及び同種の職務又は委任を除く。
第31条 議会本会議において選出された大統領、又は副大統領は、この憲法が共和国大統領に付与する全ての権限を有するものとする。
第32条 共和国大統領は、以下の特別な権限を有する。:
(1)憲法に基づく法律の形成に関与し、これを承認及び公布すること。
(2)国民議会の議院に対し、理由を付して会議の召集を要請すること。その場合、会議は可能な限り速やかに開かれるものとする。
(3)議会による事前の権限移譲を条件として、憲法の定める事項に関して法律の効力を有する政令を発行すること。
(4)第128条に定める場合に、国民投票を実施すること。
(5)憲法に定める場合及び方法で、憲法上の非常事態を宣言すること。
(6)法律の執行のために適当と認めるその他の規則、政令及び命令を発行する権限を損なうことなく、法律の管轄に属さないあらゆる事項について規制する権限を行使すること。
(7)国務大臣、次官、州大統領代表及び県大統領代表を任意に任命及び解任すること。
(8)大使、外務大臣及び国際機関の代表を任命すること。これらの公務員及び前述の(7)に規定する公務員は、共和国大統領の信任を独占し、その信任がある限り在任するものとする。
(9)元老院の同意を得て、共和国会計検査院長を任命すること。
(10)法律が独占的な信任を有すると定める公務員を任命及び解任し、法律に従ってその他の文官を任命すること。その他の公務員の解任は、同法の規定に従って行われるものとする。
(11)法律に従い、退職年金を支給すること。
(12)最高裁判所及び控訴裁判所の推薦に基づき、控訴裁判所の裁判官及び検察官 その書記官、並びに憲法裁判所の裁判官を任命すること。また、この憲法の規定に従い、元老院の同意を得て、最高裁判所の推薦に基づき、同裁判所の裁判官及び検察官並びに国家検事総長を任命する。
(13)裁判官及び司法府のその他の職員の職務上の行為を監督すること。そのために、必要に応じて最高裁判所にその不正行為を宣言するよう要求し、又は検察庁に、管轄裁判所に懲戒処分を要求し、若しくは十分な理由があれば相応の告発を行うよう要求するものとする。
(14)法律の定める場合及び方法で、特別恩赦を与えること。恩赦は、その手続きにおいて強制執行可能な判決が言い渡されるまでは認められない。代議院によって告発され、元老院によって有罪判決を受けた公務員は、議会のみが恩赦を与えることができる。
(15)諸外国及び国際機関と政治的関係を結び、交渉を行うこと。国益に資すると認める条約を締結、署名及び批准し、第54条(1)の規定に従って議会に提出し、その承認を得るものとする。これらの事項に関する討議及び審議は、共和国大統領の要求があれば非公開とする。
(16)第104条の規定に従い、陸軍、海軍及び空軍の総司令官並びにカラビネーロス長官を任命及び解任すること。また、第105条に定める方法により、軍及びカラビネーロスの将校の任命、昇任及び退任を行うものとする。
(17)国の安全保障の必要に応じて、空軍、海軍及び陸軍を展開、組織及び配備すること。
(18)戦争が生じた場合、軍の最高司令官の任務を負うこと。
(19)国家安全保障会議の意見に基づき、法律による事前の承認を得た上で、宣戦を布告すること。
(20)公的収入の徴収を監督し、法律に従ってその運用を命じること。共和国大統領は、全ての国務大臣の署名を得て、災害、外国の侵略、国内の騒乱、国家の安全に対する重大な損害若しくは脅威、又は停止すると国に重大な損害を与えるサービス維持のための財源枯渇から生じる緊急の必要を満たすために、法律で認められていない支払いを命じることができる。これらの目的のために支出される総額は、予算法の認める年間支出額の2%を超えてはならない。同法に基づき、職員を雇用することができる。ただし、異動によって各項目を増額又は減額することはできない。本項の規定に違反して支出を承認又は処理した国務大臣又は公務員は、その償還について連帯して、かつ個人として責任を負い、公金横領罪で告発されるものとする。
(21)国の重要インフラに重大又は差し迫った危険がある場合、内務・治安大臣及び国防大臣が署名した正当な最高政令により、保護されるべき対象を決定し、軍がその保護を担うことを命じること。この保護措置は、政令が官報に掲載された日から発効するものとする。
重要インフラとは、国民の健康若しくは供給、重要な経済活動、環境、又は国の安全保障に重大な損害を与える設備、物理的システム、及び重要な公共サービスを意味する。この概念は、エネルギー、ガス、水若しくは電気通信、道路、空路、陸路、海路、港湾若しくは鉄道の交通に関するもの、及び保健衛生制度などの公共サービスに関連するものなど、国民のための基本的なサービス及び投入物の生成、送信、輸送、生産、貯蔵及び分配に不可欠なインフラを意味する。法律により、国の重要インフラを管理する公共機関及び民間団体が負う義務、並びにその具体的な特定基準を定めるものとする。
共和国大統領は、第1段に規定する最高政令により、同法に規定する地域において重要インフラ保護のために展開する軍及び公安部隊の指揮権を有する軍将官を任命する。軍を指揮するために任命された長は、内務・治安省が法律に基づいて発行する最高政令で定める指示に従い、決定された地域における公共の秩序を維持する責任を負う。
この権限の行使は、この憲法又はチリが批准し発効している人権に関する国際条約に掲げられる権利及び保障の停止、規制又は制限を意味するものではない。前述の規定を損なうことなく、この措置は、公共の秩序を維持するための権限行使の範囲内でのみ効力を有し、この措置を実施する軍に法律が付与する権限から生じる。施行中の法律及びこの任務遂行のために発行される武力行使に関する規則によって定める手続きに従い、設定された重要インフラの保護区域内でのみ実施されるものとする。
この措置は、その行使の原因となった重大な、又は差し迫った危険が存続する限り、国民議会の同意を得て同期間延長することを妨げることなく、最長90日間延長するものとする。共和国大統領は、各期間経過ごとに、実施された措置及びこの権限行使の効果又は結果について、国民議会に報告しなければならない。
本項に規定する特別な権限は、法律に基づいて発行される最高政令の指示に従い、国境地帯の保護のために行使することができる。
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