第76条【司法権の帰属】、第77条【憲法上の組織法】、第78条【裁判官の任命】、第79条【裁判官の犯罪】、第80条【裁判官の任期】、第81条【裁判官の逮捕】、第82条【最高裁判所の監督権】
第6章【司法府】
第76条 民事事件及び刑事事件を審理し、判決を言い渡す権限並びにこれを執行する権限は、法律によって設置される裁判所に専属するものとする。共和国大統領及び連邦議会は、いかなる場合も、司法上の職務を執行し、係争中の事件を処理し、判決の理由及び内容を審査し、又は失効した手続きを再開することはできない。適法な方法で、管轄権の範囲内の事項について行動するよう要求された場合、その決定に付された紛争又は問題を解決するための法律が存在しない場合であっても、その権限の行使を免れることはできない。
通常の裁判所及び司法府に所属する特別裁判所は、その判決を執行し、法律の定める調査を実施し、又はこれを実施させるために、公権力に対して直接命令を発行し、又はその裁量で適当な訴訟手段を行使することができる。その他の裁判所は、法律の定める方法でこれを行うものとする。
要求された当局は、それ以上の手続きを経ることなく裁判所の命令に従わなければならない。その正当性若しくは適時性、又は執行される判決の正義若しくは適法性を評価することはできない。
第77条 憲法上の組織法により、共和国全土における司法の迅速かつ完全な運営のために必要な裁判所の組織及び権限を定めるものとする。同法により、裁判官が備えなければならない資格、及び裁判官又は書記官に任命される者が有する弁護士としての実務経験の年数を定めるものとする。
裁判所の組織及び権限に関する憲法上の組織法は、その憲法上の組織法の規定に従い、最高裁判所の事前の聴聞を経た後でなければ改正することができない。
最高裁判所は、その意見を要求する公式の書面を受領してから30日以内に意見を表明しなければならない。
ただし、共和国大統領が法案の緊急性を表明した場合は、その旨を裁判所に通知するものとする。
この場合、裁判所は、その緊急性によって示される期間内に意見を表明しなければならない。
最高裁判所が前述の期間内に意見を表明しない場合、手続きは完了したものとみなされる。
裁判所の組織及び権限に関する憲法上の組織法並びに裁判制度を規定する訴訟法により、全国の各州において施行日を別々に定めることができる。前述の規定を損なうことなく、この法律の全国的な施行期間は4年以内とする。
第78条 裁判官の任命に関して、法律は以下の一般的な規範に従うものとする。
最高裁判所は、21人の裁判官によって構成される。
最高裁判所の裁判官及び検察官は、共和国大統領によって任命される。任命については、同裁判所が推薦する5人の名簿から、元老院の同意を得て選任するものとする。元老院は、そのために特別に召集する会議において、議員の3分の2以上の賛成により、それぞれの同意を議決する。元老院が共和国大統領の提案に同意しない場合、最高裁判所は、拒否された候補者の代わりに新たな候補者を提案し、任命が承認されるまでこの手続きを繰り返して、これを完成させるものとする。
最高裁判所の裁判官のうち5人は、司法運営外部の弁護士で、15年以上の実務経験を有し、職業上又は大学での活動において卓越した実績を有し、憲法上の組織法が定めるその他の要件を満たしていなければならない。
最高裁判所は、司法府の構成員に相当する役職の補充が問題となる場合、司法府の構成員のみで名簿を作成する。名簿上の1人は、功労者名簿で最も上席の控訴裁判所裁判官が占める。残りの4人は、候補者の能力に基づいて補充される。司法運営外部の弁護士に相当する欠員を補充する場合、その名簿は、第4段に規定する要件を満たす弁護士により、公募の後に、専属的に構成されるものとする。
控訴裁判所の裁判官及び検察官は、最高裁判所の推薦により、共和国大統領が任命する。
裁判所書記官は、各管轄区域の控訴裁判所が推薦する3人の候補者名簿に基づき、共和国大統領が任命する。
裁判所の最上席の民事若しくは刑事の書記官、又は補充される役職のすぐ下の役職の最上席の民事若しくは刑事の書記官で、候補者名簿に記載され、その役職への関心を表明している者が、その候補者名簿の1人を占める。残りの2人は、候補者の能力に基づいて補充される。
最高裁判所及び控訴裁判所は、そのために特別に招集する会議において、1回かつ同一の投票により、5人又は3人の候補者名簿を作成し、各構成員は、それぞれ3人又は2人に投票する権利を有する。多数決により、上位の5人又は3人が選出される。同数の場合は、抽選によって決定するものとする。
ただし、最高裁判所の臨時裁判官の任命は、最高裁判所が行うことができる。それ以外の裁判官の場合は、各控訴裁判所が行うことができる。その任期は60日以内とし、延長することはできない。前述の上級裁判所がこの権限を行使しない場合、又は臨時の任期が満了した場合、欠員は前述の通常の方法で補充されるものとする。
第79条 裁判官は、贈収賄の罪、訴訟手続を定める法律に実質的に違反した罪、司法運営を否定及び歪曲した罪、並びに一般に、職務を遂行する際に違反した罪について、個別に責任を負う。
最高裁判所の裁判官については、法律により、この責任を執行する場合及び方法を定めるものとする。
第80条 裁判官は、品行方正である限り在職する。ただし、下級裁判官は、法律の定める期間、在職するものとする。
前述の規定にかかわらず、裁判官は、75歳に達したとき、辞任若しくは法律上の資格を喪失したとき、又は法律の定める事由によって解任されたとき、退任する。定年に関する規定は、最高裁判所長官には適用されず、任期満了まで在任するものとする。
最高裁判所は、いかなる場合も、共和国大統領の要求により、利害関係者の要求により、又は職権で、裁判官の不品行を宣言する。告発された者及び必要に応じて各控訴裁判所からの報告を受けて、全ての裁判官の多数決によって解任に同意することができる。この同意は、その履行のために共和国大統領に通知されるものとする。
最高裁判所は、そのために特別に招集する会議において、裁判官の過半数により、裁判官並びにその他の司法府の職員及び従業員を、同等の階級の他の役職に異動させることを許可又は命令することができる。
第81条 上級裁判所の裁判官、検察官、及び司法府に所属する書記官は、管轄裁判所の令状がなければ逮捕されない。ただし、現行犯で、法律に従って事件を審理する裁判所に直ちに連行する場合に限られる。
第82条 最高裁判所は、全国の全ての裁判所の運営、懲戒及び経済上の監督権を有する。ただし、憲法裁判所、選挙裁判所及び州選挙裁判所を除く。
上級裁判所は、その懲戒権を行使する際に、憲法上の組織法が定める場合及び方法でのみ、管轄権の決定を無効とすることができる。
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