待ち行列理論の公式。

1 ホリエモンの動画

 西成活裕先生とホリエモンの対談動画を見た。
イグ・ノーベル賞受賞の東大教授に聞く、渋滞が起こらないようにする法則とは?【西成活裕×堀江貴文】(YouTube)

西成活裕先生『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』は読んだことがあるけれど、渋滞学についてのお話は新鮮だった。
動画では大雑把な説明だったので、ネットで調べて数学的に確認してみた。

2 リトルの法則

 まず、リトルの法則を確認する。

$L = \lambda W$

・$L$は顧客数の平均。行列なら並んでいる人数の平均である。
・$\lambda$は平均到着時間。その店(行列)に来る人の割合(例:1分間に3人来る)。
来る人と出る人は同じ(均衡状態)と考え、その平均を計算して使用する。
・$W$は顧客1人当たりにかける時間の平均。

例えば、30人($L = 30$)並んでいて、1分間に3人来る(出る)($\lambda = 3$)場合、待ち時間は10分($W = 30 \div 3 = 10$)である。

3 待ち行列理論の公式の導出

 ここから少し難しくなる。M/M/1 待ち行列の理論になる。
上記のリトルの法則では、来る人と出る人が同じだと考えた。
では、来る人と出る人が違う場合、どのように分析できるだろうか。
まず、来る人を$\lambda$(人/時間)、出る人を$\mu$(人/時間)とおく。
そして、来る人($\lambda$)を出る人($\mu$)で割り、$\rho = \dfrac{\lambda}{\mu}$とおく。

(1)$\rho \geq 1$のとき

 行列はどんどん長くなるだけである。

(2)$\rho < 1$のとき

 定常過程について考えることができる。このとき、増加と減少がつり合うはずである。
顧客数を$n$人、人数が$n$人である確率を$P_n$とおく。また、時刻の変化を$t$の増減で表現する。
増加と減少がつり合うので次の式が成り立つはずである。

$\lambda \Delta t P_n + \mu \Delta t P_n = \lambda \Delta t P_{n-1} + \mu \Delta t P_{n+1}$

$(\lambda + \mu)P_n = \lambda P_{n-1} + \mu P_{n+1}$

両辺を$\mu$で割ると

$(\rho + 1)P_n = \rho P_{n-1} + P_{n+1}$

また、$P_0, P_1$の関係は
$\lambda \Delta t P_0 = \mu \Delta t P_1$

$\lambda P_0 = \mu P_1$

両辺を$\mu$で割ると

$\rho P_0 = P_1$

4 数列の漸化式を思い出そう

 $(\rho + 1)P_n = \rho P_{n-1} + P_{n+1}$は次のように変形できる。

(1)$P_{n+1} - P_n = \rho(P_n - P_{n-1})$と変形することができる。

よって、$P_n - P_{n-1} = (P_1 - P_0)\rho^{n-1}$

 $= (\rho P_0 - P_0)\rho^{n-1}$

 $= (\rho - 1)\rho^{n-1}P_0$

(2)$P_{n+1} - \rho P_n = P_n - \rho P_{n-1}$と変形することもできる。

よって、$P_n - \rho P_{n-1} = P_1 - \rho P_0$

 $= \rho P_0 - \rho P_0 = 0$

$P_n = \rho P_{n-1}$

(1)より$P_n - P_{n-1} = (\rho - 1)\rho^{n-1}P_0$

$P_n = (\rho - 1)\rho^{n-1}P_0 +  P_{n-1}$

 $= (\rho - 1)\rho^{n-1}P_0 + \dfrac{1}{\rho}P_n$

$P_n - \dfrac{1}{\rho}P_n = (\rho - 1)\rho^{n-1}P_0$

$\dfrac{\rho - 1}{\rho}P_n = (\rho - 1)\rho^{n-1}P_0$

$P_n = (\rho - 1)\rho^{n-1}P_0 \times \dfrac{\rho}{\rho - 1}$

 $= \rho^n P_0$

5 等比数列の和を思い出そう

 $P_0 + P_1 + P_2 + \cdots + P_n + \cdots = 1$である。

$P_0 + \rho P_0 + \rho^2 P_0 + \cdots + \rho^n P_0 + \cdots = 1$

$(1 + \rho + \rho^2 + \cdots + \rho^n + \cdots)P_0 = 1$

$1 + \rho + \rho^2 + \cdots + \rho^n = \dfrac{1 - \rho^{n+1}}{1 - \rho}$である。
$0 < \rho < 1$であるから、$n \to \infty$のとき$\rho^{n+1} \to 0$

よって、$\dfrac{1}{1 - \rho}P_0 = 1$

$P_0 = 1 - \rho$

$P_n = \rho^n (1 - \rho)$

6 最後に$L$を求める

 行列に並んでいる人数の平均を$L$とおくと

$L = 1P_1 + 2P_2 + \cdots + nP_n + \cdots$

 $= (\rho + 2\rho^2 + \cdots + n\rho^n + \cdots)(1 - \rho)$

$\rho + 2\rho^2 + \cdots + n\rho^n = \dfrac{\dfrac{\rho(1 - \rho^n)}{1 - \rho} - n\rho^{n+1}}{1 - \rho}$である。
$0 < \rho < 1$であるから、$n \to \infty$のとき$\rho^n \to 0$、$n\rho^{n+1} \to 0$

よって、$L = \dfrac{\rho}{1 - \rho}$

7 参考記事

サルでもわかる待ち行列オブラブ
待ち行列の基本形(M/M/1)木暮 仁:「経営と情報」に関する教材と意見

Popular posts from this blog

メキシコ合衆国政治憲法(1917)【私訳】

高等学校卒業程度認定試験(高認)数学過去問解説

第73条【議会の権限】、第74条【代議院の排他的権限】、第75条【公務員の賃金】