平成30年度第1回高認国語問5【漢文】
1 原文(書き下し文)
服虔既に春秋を善くす。
将に注を為らんとし、同異を参攷せんと欲す。
崔烈が門生を集めて伝を講ずるを聞き、遂に姓名を匿し、烈の門人の為に賃はれて食を作る。
毎に講時に至るに当たつて、輒ち窃に戸壁の間に聴く。
既に己に踰ゆること能はざるを知り、稍諸生と共に其の短長を叙す。
烈聞き、何人なるかを測らず。
然れども素より虔が名を聞き、意に之を疑ふ。
明蚤に往き、未だ寤めざるに及んで、便ち呼ぶ、「子慎、子慎と。」
虔、覚えず驚き応ず。
遂に相与に友とし善し。
(『世説新語』より)
2 現代語訳
服虔は既に春秋を十分に知っていた。
その注釈書を作ろうと思い、他の解釈との同異を参考にしたいと思った。
崔烈が門生を集めて講義していると聞き、遂に自分の姓名を隠して、烈の門人のために雇われて食事を作った。
毎回講義のときになると、こっそりと戸や壁のかげで聴いていた。
自分にまさることはできないと知り、次第に諸生と共にその長短を論じた。
烈はこのことを聞き、何者であるか分からなかった。
しかし素より虔の名を聞いたことがあったので、虔ではないかと疑った。
次の日の朝に行き、虔がまだ目覚めていないときに呼んだ。
「子慎、子慎。」
虔は思いがけず、驚いて応答してしまった。
とうとう二人は善い友となった。