平成30年度第2回高認国語問5【古文】
1 原文
I
世の中に、その比人のもてあつかひぐさに言ひあへる事、いろふべきにはあらぬ人の、よく案内知りて、人にも語り聞かせ、問ひ聞きたるこそうけられね。
ことに、かたほとりなる聖法師などぞ、世の人の上は、わがごとく尋ね聞き、いかでかばかりは知りけんと覚ゆるまでぞ、言ひ散らすめる。
(『徒然草』第七十七段より)
Ⅱ
今様の事どものめづらしきを、言ひひろめ、もてなすこそ、又うけられね。
世にことふりたるまで知らぬ人は、心にくし。
いまさらの人などのある時、ここもとに言ひつけたることぐさ、ものの名など、心得たるどち、片端言ひかはし、目見合はせ、笑ひなどして、心知らぬ人に心得ず思はする事、世なれず、よからぬ人の、必ずある事なり。
(『徒然草』第七十八段より)
Ⅲ
何事も入りたたぬさましたるぞよき。
よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言ふ。
片田舎よりさし出でたる人こそ、万の道に心得たるよしのさしいらへはすれ。
されば、世にはづかしきかたもあれど、自らもいみじと思へる気色、かたくななり。
よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそいみじけれ。
(『徒然草』第七十九段より)
2 現代語訳
I
世の中に、その頃、人が噂しあっている話題について、直接関係のない者が事情を知って、人に語ったり、尋ねたりするのは納得がゆかない。
特に、片田舎の修行僧が、世間話を我が事のように尋ねたりして、どうしてそこまで知っているのかと思われるほどに、言い散らかしているようだ。
Ⅱ
今時の事柄のめずらしさを言ひ広め、もてなすのはこれもまた感心しない。
世間で言い尽くされるまで知らずにいる人は、奥ゆかしい。
今新しく来た人がいるとき、こちらで言いなれている話題、物の名前などを、承知している仲間同士で省略して言い合い、目を見合わせて笑いなどして、意味を知らない人に分からないと思わせるのは、世間知らずで無教養な人が必ずやることである。
Ⅲ
何事も深く知らないようにしているのがよい。
立派な人は知っていることでも、そのように知ったふうな顔で言わない。
片田舎から出てきた人が、あらゆる道に心得たふうの受け答えをするのである。
そうすれば、聞いている方が恥ずかしくなるようなこともあるが、物知りであることを自分ですばらしいと思っている様子はみっともない。
よく知っている道については、必ず口を重くして、質問がない限り言わないのがよい。