令和元年度第1回高認国語問5【漢文】
1 原文(書き下し文)
防禦之を聞き、驚きて曰はく、
「吾が女は病に臥して床に在り、今一歳に及び、饘粥進まず、転側にも人を須ゐる、豈に是の事有らんやと。」
生は其門戸之辱為るを恐れ、故に詞を飾りて以て之を拒むと謂ひ、乃ち曰はく、
「目今慶娘は舟中に在り、人をして之を舁き取りて来らしむべしと。」
防禦信ぜずと雖も、然れども且に家僮をして馳せ往きて之を視はしめんとするも、至れば則ち見る所無し。
(中略)
「父母我を許せり。
汝嬌容を好く做し、慎しみて新人を以て故人を忘るること無かれと。」
言ひ訖はり、慟哭して地に仆る。
之を視れば、死せり。
急ぎ湯薬を以て之に灌げば、時を移して乃甦へり、疾病已に去り、行動常の如し。
其の前事を問へば、並びに之を知らず、殆ど夢の覚むるが如し。
遂に吉を涓びて、崔生之婚を続ぐ。
(中略)
復た夢に生に見れて曰はく、
「君が薦抜を蒙り、尚ほ余情有り。
幽明を隔つと雖も、実に深く感佩す。
小妹は柔和なれば、宜しく善く之を視るべしと。」
生驚き悼んで覚む。
此れ従り遂に絶ゆ。
嗚呼、異なるかな。
(『剪灯新話』より)
2 現代語訳
防禦はこれを聞き、驚いて言った。
「私の娘は病いで床に伏してから一年も経ち、お粥も進まず、寝返りにも人の助けがいる。そんなことあるはずがない。」
崔生は、防禦が家の不名誉となることを恐れ、嘘を言って拒んでいると思い、言った。
「現在、慶娘は舟中にいます。人を遣わして、彼女を担いで来てください。」
防禦は信じなかったが、召使いを確かめに行かせると、舟にはいなかった。
(中略)
「父母は私を許してくれました。
貴方はよいお姉さんになってください。慎しんで、新しい人によって故人を忘れることのないように。」
言ひ終わると、慟哭して地に倒れた。
見ると気絶していた。
急いで湯薬を飲ませると、しばらくして蘇生した。疾病は去り、行動は普段通りとなった。
その前のことを問うと覚えておらず、夢から覚めたようだった。
遂に吉日を選んで、崔生との婚姻を続ぐこととなった。
(中略)
また夢の中で、崔生の前に現れて言った。
「あなたに目をかけてもらい、いまだに余情があります。
冥土と現世を隔つと言えども、本当に心に深く感じて忘れません。
妹は柔和ですので、彼女のことをよく見てあげてください。」
崔生は驚き悼んで、夢から覚めた。
その後は遂に現れなくなった。
ああ、不思議なことである。