令和2年度第2回高認国語問5【漢文】
1 原文(書き下し文)
今夫れ弈之数為る、小数なれども、心を専らにし志を致さざれば、則ち得ざるなり。
弈秋は、通国之弈を善くする者なり。
弈秋をして二人に弈を誨へしむるに、其の一人は心を専らにし志を致し、惟弈秋に之聴くことを為す。
一人は之を聴くと雖も、一心には以為へらく、鴻鵠に有りて将に至らんとすと。
弓繳を援きて之を射んことを思はば、之と倶に学ぶと雖も、之に若かず。
是れ其の智の若かざるが為にか。曰はく、然るにはあらざるなりと。
孟子曰はく、「大匠は拙工の為に縄墨を改廃せず。
羿は拙射の為に其の彀率を変ぜず。君子は引いて発せず、躍如たり。
中道にして立つ。能者之に従ふと。」
(『孟子』より)
2 現代語訳
囲碁の技術は、つまらぬ技術ではあるけれど、専心して志を持たなければ得られない。
秋という名の囲碁の名人は、国中で囲碁を巧みにする者である。
秋が二人に囲碁を教えたところ、一人は専心して志を持ち、秋の教えを聴いた。
もう一人は秋の教えを聴いても、大きな鳥を弓で射貫いてやろうと一心に思っていた。
弓のいぐるみを引いて射ようと思っていれば、共に学ぶと言えども及ばない。
これは智が及ばないためであろうか。そうではない。
孟子は言った。「大工の棟梁は下手な大工のために、縄墨を変えるようなことはしない。
羿は弓を射ることの下手な人のために、弓を引きしぼる限度を変えない。君子は引いて発せず、躍動している状態である。
中庸の道に立つ。才能がある者はこれに従う。」