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令和3年度第1回高認国語問5【古文】

1 原文

I

 知恵も侍り心も賢き人は、ひとをつかふに見え侍るなり。
人毎のならひにて、わが心によしとおもふ人を、万のことに用ゐて、文道に弓箭とりをつかひ、こと葉たらぬ人を使節にし侍り、心とるべき所に鈍なる人を用ゐなどするほどにそのことちがひぬる時、なかなか人の一期をうしなふことの侍るなり。その道にしたしからむをみて用ゐるべき也。
曲がれるは輪につくり、直なるは轅にせんに、徒なる人は侍るまじき也。たとひわが心にちがふ人なりとも、物によりてかならず用ゐるべきか。
(『竹馬抄』より)

II

 幼少の時より、道の正しき輩に相伴ひ、かりそめにも悪友に随順あるべからず。
水は方円の器に随ひ、人は善悪の友に依るといふ事、誠なる哉。
爰を以て、国を治むる守護は、賢人を愛し、民を貪る国司は、佞人を好むの由、申し伝ふる也。
君心を知らんと欲せば、其の君の愛する輩を見、其の心を知るといふ事これ有り。
(中略)
 人をあまた召仕ふ心得、大かた日月の草木国土を照らし給ふごとく、近習にも外様にも、山海遙か隔りたる被官以下までも、昼夜慈悲誅罰の心を廻し、其の人々に随ひて召仕ふ可き也。
諸侍の頭をする身は、知恵才学無く油断せしむれば、上下の輩に批判せらるる事多かるべし。
只行住坐臥、仏の衆生をすくはんと諸法に宣ふごとく、心緒をくだき、文武両道を心に捨て給ふべからず。
国民ををさむる事、仁義礼智信一つもかけては、あやうき事なるべし。政道を以て科を行へば、人の恨なし。
非義を構て、死罪せしむれば、其の恨ふかし。しかれば、其の科因果遁るべからず。
第一には臣下の忠不忠の者を分別して、恩賞有る可き儀、簡要也。
(『今川状』より)

2 現代語訳

I

 知恵もあり心も賢い人は、人を召し使うことにおいてそれが見えるものである。
人それぞれの習性であり、自分の心でよいと思える人を、いろいろなことに用いて、文学の道に武士を使い、言葉が足りない人を使節にしたり、心配りを要する所に鈍い人を用いたり、それぞれの人に適していない仕事を任せると、十分に実力を出し切ることができず、その人の一生を台無しにしてしまうことがある。その道に精通しているかどうかを見て用いるべきである。
曲がっているもので車輪をつくり、真っ直ぐなものを轅にする。不誠実な人を置くべきではない。例え自分の心と違う人であっても、物によっては必ず用いるべきである。

II

 幼少の頃より、正しい道を歩む者と一緒にいて、決して悪友に付き従うべきではない。
水は正方形あるいは円形の器に従ってその形を変え、人は善悪の友によって変わるのは真実である。
そういうわけで、国を治める守護は賢人を愛し、民を貪る国司は口先が巧みで、心のねじけている人を好むのである。
君主の心を知りたいと思うならば、君主の寵愛する者たちを見て、その心を知るということがある。
(中略)
 人をたくさん使う心得は、大かた日や月の草木、国土を照らすようなものである。近習にも外様にも、山海を遙かに隔てた被官以下まで、昼夜、慈悲や誅罰について心配りをし、その者たちの習性に従って使うべきである。
諸侍の頭をする者は、知恵、才能、学問がなく油断させると、上下の者たちに批判されることが多いものである。
ただ行住坐臥、仏が衆生を救おうと諸法を言い聞かせるように、思いをくだき、文武両道を心から捨てるべきではない。
国民を治めるのに、仁、義、礼、智、信の一つでも欠けると、危ういこととなる。正しい道によって刑罰を行えば、人の恨みはない。
非義を構えて死罪にさせれば、その恨みは深い。そうであれば、その刑罰は因果から逃れることはできない。
第一に、臣下の忠義の者と不忠義の者を分別して、恩賞を与えるべきであり、それが肝要である。

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