令和元年度第2回高認国語問5【漢文】
1 原文(書き下し文)
【資料1】
韓のくすしを見るに、人ごと妙なるといふにはあらず。
拙きも多し。
されど、脈をしり、くすりを用ふる事、この国のくすしにはちがひ、くはしきやうにおぼゆ。
やまひにより、くすりひといろにて験をうる事あり。
これをこの国のくすしは、単方なりといひてわらへど、許胤宗が言葉を見れば、さにはあるまじ。
自註。許胤宗が曰はく、
「古之上医は、病と薬与値へば、唯だ一物を用ひて之を攻む。
今人は情を以て病を度り、其の物を多くして、以て功有らんことを幸ふ。
譬へば猟るに兎を知らず、広く原野に絡りて、一人の之獲んことを冀ふ。
術も亦疎なりと。」
(雨森芳洲『たはれ草』より)
【資料2】
方薬に精しく、処斉は数種に過ぎざるも、心に分銖を識り、称量を仮らず。
針灸は数処に過ぎず。
若し疾発して内に結び、針薬の及ぶ能はざるの所の者は、乃ち先づ酒を以て麻沸散を服せしめ、既に酔ひて覚する所無くして、因りて腹背を刳破し、積聚を抽割す。
(『後漢書』より)
2 現代語訳
【資料1】
中国の医者を見るに、世間の噂では優れているという訳ではない。
拙い者も多い。
しかし、脈を取って薬を用いることについては、日本の医者と違い、詳しいように思える。
病気により、薬一種を処方して効果を得ることがある。
これを日本の医者は簡単な処方であると言って笑うけれど、許胤宗の言葉を読めば、そうではないだろう。
自分で加えた注釈。許胤宗は言った。
「昔の上医は、病気と薬が合えば、その薬一種を用いて病気を治めた。
今の人は情によって病気を診断し、多種の薬を用いて、効果があることを願う。
例えるなら狩猟をするのに兎を知らず、広く原野をめぐって、誰か一人が獲ることを願うようなものである。
術もまた粗略である。」
【資料2】
薬の処方に精通し、調合は数種に過ぎなかったが、心で分量を知り、はかりを使わなかった。
針灸は数処に過ぎなかった。
もし病気を発症して内部に結び、針薬の及ばないものについては、まず酒によって麻沸散(麻酔薬)を飲ませ、酔って意識をなくさせて、腹や背を切開し、病気の根本を切除した。