令和5年度第2回高認国語問5【漢文】
1 原文(書き下し文)
【文書II】
荊の文王曰はく、「莧譆数我を犯すに義を以てし、我に違ふに礼を以てす。
与にをれば則ち安からざるも、之を曠しくすれば而ち不穀得。
吾が身を以て之を爵せずんば、後世聖人有りて、将に以て不穀を非とせんとす」と。
是に於いて之を五大夫に爵す。
「申侯伯善く吾意を持養す。
吾が欲する所は則ち我に先んじて之を為す。
与にをれば則ち安く、之を曠しくすれば而ち不穀喪ふ。
吾が身を以て之を遠ざけずんば、後世聖人有りて、将に以て不穀を非とせんとす」と。
是に於いて送りて之を行らしむ。
(『呂氏春秋』より)
【文書III】
晋の平公鋳て大鐘を為り、工をして之を聴かしむ。皆以て調へりと為す。
師曠曰はく、「調はず、請ふ更めて之を鋳ん」と。
平公曰はく、「工皆以て調へりと為す」と。
師曠曰はく、「後世音を知る者有らば、将に鐘の調はざるを知らんとす。
臣窃かに君の為に之を恥づ」と。
師涓に至りて果たして鐘の調はざるを知れり。
是れ師曠の善く鐘を調へんと欲せしは、後世の音を知る者を以為へばなり。
(『呂氏春秋』より)
2 現代語訳
【文書II】
荊の文王は言った。「莧譆はしばしば義をもって私を戒め、礼をもって私に背く。
一緒に居ると心穏やかでないが、これが長く続けば私の利益になる。
私がこの者に爵位を与えなければ、後世の聖人は、これを私の非とするだろう。」
こうしてこの者に五大夫の爵位を与えた。
「申侯伯はよく私をいつまでも守り続ける。
私が望むことを私に先んじて行う。
一緒に居ると心穏やかであるが、これが長く続けば私の不利益になる。
私がこの者を遠ざけなければ、後世の聖人は、これを私の非とするだろう。」
こうしてこの者を去らせた。
【文書III】
晋の平公は大鐘を鋳造し、楽工(楽器を作る人)にこれを聴かせた。皆音は調っておりますと言った。
楽師の曠は言った。「調っておりません、改めて鋳造し直してください。」
平公は言った。「楽工は皆調っておると言ったが。」
楽師の曠は言った。「後世に音を聞き分けられる者が現れれば、鐘の音が調っていないことに気付いてしまいます。
私は我が君のために、密かにこれを恥じているのございます。」
果たして、後世の楽師の涓は、鐘の音が調っていないことに気付いた。
楽師の曠が鐘の音を正しく調えようと望んだのは、後世の音を聞き分けられる者を思えばのことであった。
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