平成28年度第1回高認国語問4【漢文】
1 原文(書き下し文)
王籍の若耶溪に入るの詩に云ふ、「蟬噪ぎて林逾静かに、鳥鳴きて山更に幽かなり」と。江南以て文外断絶と為し、物に異議無し。簡文吟詠して、之を忘るる能はず。孝元諷味して、以て復た得べからずと為し、懐旧志には籍の伝に載するに至る。范陽の盧詢祖は、鄴下の才俊なるが、乃ち言ふ、「此れ語を成さず、何ぞ能に事とせん」と。魏収も亦その論を然りとす。詩に云ふ、「蕭蕭として馬鳴く、悠悠たる旆旌」と。毛伝に曰はく、「諠譁ならざるを言ふなり」と。吾毎に此の解の情致有るを歎ず。籍の詩はこの意にのみ生ぜし。
(『顔氏家訓』より)
2 現代語訳
王籍の若耶溪に入るという詩にある。「蟬噪ぎて林逾静かに、鳥鳴きて山更に幽かなり。」江南は全ての文学において飛び抜けていて、これに異議はない。簡文は吟詠して、これを忘れることができなかった。孝元は諷誦玩味して、このような詩句に二度とお目にかかれないだろうとお思いになり、懐旧志に籍の伝として記載されることとなった。范陽の盧詢祖は、鄴における俊才であったが、次にように言った。「これは意味を成さない、どうして佳作であろうか。」魏収もまたその論を然りとした。詩経にある。「蕭蕭として馬鳴く、悠悠たる旆旌。」毛伝は言った。「やかましくないことを意味するものである。」私は常にこの解釈に趣きが有ることに感嘆する。籍の詩はこの意味においてのみ生じ得るものである。
・高等学校卒業程度認定試験(高認)国語過去問古文・漢文現代語訳に戻る。