平成29年度第1回高認国語問6【古文】
1 原文
熱日のしばしもえさし出でぬに、涙を流し、黒煙を立てて祈請し給ひければ、香炉の煙空へ上りて、扇ばかりの黒雲になる。上達部は、南殿に並びゐ、殿上人は、弓場殿に立ちて見るに、上達部の御前は、美福門より覗く。
かくのごとく見るほどに、その雲むらなく大空にひき塞ぎて、竜神震動し、電光大千界に満ち、車軸のごとくなる雨降りて、天下たちまちに潤ひ、五穀豊饒にして、万木果を結ぶ。
見聞の人、帰服せずといふことなし。
(『宇治拾遺物語』より)
2 現代語訳
熱日で少しも外に出ることができないほどであったが、涙を流し、黒煙を立てて祈祷なされると、香炉の煙が空へ上り、扇ほどの黒雲になった。上達部は南殿に並んで座り、殿上人は弓場殿で立って見ていると、上達部の馬に乗って先導する者たちが美福門から覗いている。
こうして見ているうちに、その雲は大空をむらなく覆い、竜神が震動し、電光が地上に満ち、車軸のような雨が降って、天下はたちまちにして潤い、五穀豊饒にして、万木は果実をつけた。
これを見聞きして、帰服しない者はいなかった。
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