平成29年度第2回高認国語問7【古文】
1 原文
禅師、尊像を造らむが為に、京に上る。財を売りて既に金丹等の物を買ひ得たり。還りて難波の津に到りし時に、海辺の人、大亀を四口売る。禅師、人に勧めて買ひて放たしむ。即ち人の舟を借りて、童子を二人将て、共に乗りて海を度る。日晩れ夜深けぬ。舟人、欲を起し、備前の骨嶋の辺に行き到り、童子等を取り、人を海の中に擲げき。然る後に、禅師に告げて云はく、「速に海に入るべし」といふ。師、教化すと雖も、賊猶ほ許さず。
玆に於て、願を発して海中に入る。水、腰に及ぶ時に、石の脚に当りたるを以て、其の暁に見れば、亀の負へるなりけり。其の備中の海の浦海の辺にして、其の亀三たび頷きて去る。疑はくは、是れ放てる亀の恩を報ぜるならむかと。
(『日本霊異記』より)
2 現代語訳
禅師は仏像を造る為に、京に上った。財産を売って既に金丹等の物を買った。帰りに難波の船着き場に到着した時に、海辺の人が大きな亀を四匹売っていた。禅師は買って放してやった。その後に人の舟を借りて、童子が二人いたが、共に乗って海を渡った。日が暮れて夜が更けた。舟人が欲を起こして、備前の骨嶋の辺りに着いた時に、童子らを捕まえ、海へ投げ入れた。そうした後に、禅師に言った。「さっさと海に入れ。」禅師は教え諭したけれども、賊はそれでも許さなかった。
ここにおいて、願を発して海中に入った。海水が腰まで及んだ時に、石が足に当たったので、暁の光で見てみると、亀の上に乗っていた。備中の海の辺りで、その亀は三度頷いて去っていった。思うに、これは放してやった亀の恩返しだったのではなかろうか。
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