数学と英語、言語と学問。
1 数学英語
最近、数学英語の勉強をしていなかったので、恥ずかしい勘違いをしてしまった。regular triangleとright triangleを混同してしまった。
正三角形は英語でequilateral triangleあるいはregular triangle。
right triangleは直角三角形で、直角の英語がright angle。
・数学英語:Math Words in Japanese-English:https://tanakah17191928.blogspot.com/2019/05/math-words-in-japanese-english.html
2 語源と翻訳語
今後は間違えないように気をつけましょうと言って終わりそうな話だけれど、よくよく考えてみると案外奥が深い。数学用語だけの問題ではなく、明治以降に西洋から近代科学を輸入した際に、専門用語をどうしてそのように翻訳したのかという問題に行き着くからである。
regularには「正常な」という意味があるから、正三角形は「正」常な三角形でそれ以外は異常なのだろうか。
この場合、regularには「規則性の」という意味を読み取るべきだろうけれど、正の字を使って正三角形という翻訳語をつくった理由は何だろう。
直角も翻訳語であるならば、right angleを直角と訳したことになるけれど、それこそ「正」角と訳してもよかったのではないか。
でもそうすると、「正」角以外は何だか間違った角みたいな感じになりそうである。
別にふざけている訳ではない。
実はこの種の話題は、検索しても簡単に分からない類の話が多い。
明治期のインテリたちがこんな議論を真剣にしていたのかもしれないと思うと、何だか妙な親近感が湧いてくる。
3 数学用語と翻訳語
以前、等式の左辺とか右辺とか、図形ではないのに何で「辺」という字を使うのかと聞かれて調べてみたけれど、これも普通に検索しただけでは答えが見つからなかった。これも明治以降、西洋から近代数学を輸入した際の誰かの訳語が、そのまま使われているのではないかと個人的には考えている。
英語のleft sideを左辺、right sideを右辺と訳したのが定着したのではないか。
こういう問題は根拠となる文献を探し当てないといけないので、数学というよりも文化や歴史の問題だなぁ。
検索しただけでは分からなかったけれど、専門的な文献を漁る余裕もなく、いまだに仮説のままである。
直角の「直」という漢字は、直線という言葉が分かりやすいけれど、「まっすぐ」というのが本来の意味である。
垂直や鉛直も翻訳語らしいので、right angleもそれらの言葉との関連で「直」角と訳されたのかもしれない。
「正」角と訳さなかったのは、正解だったのだろう。
「なんでもかんでも正の字使えばいいってもんじゃないぞ!」なんて、当時のインテリたちが議論してたのかもしれない。
rightには「まっすぐ」という意味もあるので、right angleを「直」角と訳すのは、ある意味直訳だとも言えそうである。
4 言葉、言語は難しい
right には「整った」という意味もあるので、正三角形はそもそもregular triangleではなくright triangleでもよかったのではないかとも思うのだけれど、regularの「規則性の」という意味が一番ふさわしいようにも感じるので、結局、正三角形がregular triangleと呼ばれるのは一番自然なのかもしれない。いずれにしても、言葉は文化であり歴史の産物でもあるので、今ある語彙とルールを受け入れるしかない。
おそらく英語ネイティブからすれば、「直角=90度をright angleと呼ぶのは当然だろう、こいつは何を血迷ったことを言っているんだ」と思うに違いない。
こういう言葉に対する感覚の鋭敏さこそ、ネイティブと非ネイティブの間にある壁なのだろう。
5 自然科学と人文科学
幾何学(geometry)をgeography(地理学)と勘違いして話をしてしまい、後で気付いて独り赤面したこともある。数学に限らなければ、この種の恥ずかしい失敗談はたくさんある。
「恥の多い生涯を送って来ました。」(太宰治『人間失格』より)
数学や物理など理系の学問には、理系の学問の難しさがある。
言葉、言語は、どちらかというと文化や歴史に根差した、人文系の学問として捉えられることが多い。
不況で就職氷河期だった時代には、文系は理系から随分バカにされたものである。
しかし、社会科学、人文科学には、社会科学、人文科学の難しさがある。
それはそれで奥が深くて、変な沼にはまるといくら手を突っ込んでも底が分からないような、難問に遭遇することもある。
いずれにしても学問や研究は、本気でやろうとすると一筋縄ではいかない代物なのだと思う。