平成29年度愛知県公立高校入試(A)国語問4【古文】
1 原文
人の心、もとより、善悪なし。善悪は、縁に随つて起る。
たとへば、人、発心して、山林に入る時は、林家は善し、人間は悪しと思へり。
また、退心して山林を出づる時は、山林は悪しと云ふ。
これ、即ち決定、心に定相無き故に、縁に随つて、ともかくもなるなり。
故に、善縁に逢へば心善くなり、悪縁に近づけば心悪しくなるなり。
我が心、もとより悪しと思ふことなかれ。
ただ、善縁に随ふべきなり。
(『正法眼蔵随聞記』より)
2 現代語訳
人の心には、元来、善悪はない。善悪は、縁(周囲の状況)に従って起こる。
たとえば、仏道修行をする心を起こして、山林に入る時は、林中の住まいは善い、世間の住まいは悪いと思うものである。
しかし、修行する心が鈍って山林を出る時は、林中の住まいは悪いと言ったりする。
すなわち、必ず、心に一定不変の状態がないので、縁に従って、どのようにもなってしまう。
よって、善縁に恵まれれば心も善くなり、悪縁に近付けば心も悪くなるのである。
私の心は、もともと、悪いものなのだと思ってはならない。
ただ、善縁に従うべきなのである。
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