令和5年度愛知県公立高校入試国語問4【漢文】
1 原文
後漢の魯恭字は仲康、扶風平陵の人なり。
粛宗の時、中牟の令に拝せらる。
専ら徳化を以て理むることを為し、刑罰に任ぜず。
郡国に螟ありて稼を傷ふ。
犬牙の縁界も中牟に入らず。
河南の尹袁安之を聞き、其の実ならざるを疑ひ、仁怨の掾肥親をして往いて之を廉さしむ。
恭阡陌を随行し、倶に桑下に座す。
雉有り過ぎて其の傍らに止まる。
傍らに童児有り。
親曰はく、「児何ぞ之を捕らざる。」と。
児言ふ、「雉方に雛を将ゐる。」と。
親、瞿然として起ち、恭と訣れて曰はく、
「来たる所以の者は、君の政迹を察せんと欲するのみ。
今虫境を犯さず、化鳥獣に及び、竪子に仁心有り。
「来たる所以の者は、君の政迹を察せんと欲するのみ。
今虫境を犯さず、化鳥獣に及び、竪子に仁心有り。
三の異なり。」と。
府に還り状を以て安に白す。
(『蒙求』より)
2 現代語訳
後漢の魯恭は、字は仲康で、扶風平陵の出身である。
粛宗の時代に、中牟県の長官に任命された。
刑罰に頼らず、徳による教えで世を治めていた。
地方に害虫が発生して、田畑の穀物を荒らした。
県境が複雑に入り組んだ場所でも、害虫は中牟県内には入らなかった。
河南郡の長官であった袁安はこのことを聞いて、本当ではない(嘘ではないか)と疑った。
仁怨という役職にあった肥親に、中牟県を視察させた。
魯恭はあぜ道を随行し、肥親と共に桑の木の下に座った。
キジが目の前を通り過ぎて、傍らに止まった。
その傍に子どもがいた。
肥親は言った。
「坊やはどうしてキジを捕まえないのかね。」
子どもは言った。
「キジがひなを連れているからです。」
肥親は驚いて立ち上がり、魯恭と別れる際に言った。
「ここに来た理由は、あなたの政治を視察しようと思ったからです。
ここでは害虫は県内に入らず、その徳は鳥や獣にも及び、子どもにも思いやりの心が備わっています。
3つの違い(優れた点)があります。」
肥親は郡の役所に帰って、その状況を袁安に報告した。