第19条【被告人の勾留】、第20条【刑事裁判の原則、被告人及び被害者の権利】、第21条【検察庁】

第1編

第1章【人権及び保障】

第19条 司法機関による勾留は、被告人が勾留された時から72時間を超えてはならない。ただし、被告人が起訴された犯罪、執行の場所、時間及び状況、並びに法律によって犯罪とされる行為、被告人がこれを実行し、又はこれに関与した蓋然性があることを証する資料を記載した裁判のための勾留令状によって正当化される場合は、この限りでない。

 検察庁は、被告人の公判への出頭、捜査の進捗、被害者、証人又はコミュニティの保護を保障するためにその他の予防的な手段が十分でない場合、及び被告人が悪意犯罪の実行で起訴され、又は過去に判決を宣告されている場合のみ、裁判官に公判前の勾留を請求することができる。裁判官は、以下の事件について公判前の勾留を正式に命じるものとする。未成年者に対する虐待又は性的暴力、組織犯罪、殺人、フェミサイド、強姦、誘拐、人身売買、住宅強盗、選挙目的の社会プログラムの利用、不正蓄財及び職権乱用の汚職、あらゆる形態の貨物輸送における窃盗、ハイドロカーボン、石油又は石油化学に関する犯罪、私人による個人の強制失踪又は失踪に関する犯罪、武器及び爆発物等の暴力的手段による犯罪、陸海空軍専用の銃器及び爆発物に関する犯罪、並びに国家安全保障、人格の自由な発達及び健康に対する、法律の定める重大な犯罪。

 法律により、裁判官が個人の裁判を受ける自由を取り消すことができる場合について定めるものとする。

 公判前の勾留令状の発行期限は、法律の定める方式により、被告人の請求があった場合に限り、延長することができる。被告人の不利益となる勾留の延長は、刑法によって処罰されるものとする。被告人が収容されている施設の責任者は、この期限内に、裁判のための勾留令状及び公判前の勾留令状、又は憲法上の期限の延長請求の正式な写しを受領しない場合、期限が経過した時に裁判官の注意を喚起し、その後3時間以内に前述の証明書を受領しない限り、被告人を釈放するものとする。

 全ての手続きは、裁判のための勾留令状に記載された犯罪行為に基づくものとする。公判において起訴された以外の犯罪の実行が判明した場合、適切であれば後日その併合を命じることを損なうことなく、その犯罪は別件の捜査対象とする。

 組織犯罪の裁判のための勾留令状が発行された後、被疑者が訴追を免れ、又は外国で他の裁判官に送致された場合、刑事訴訟の時効期間と共に訴訟手続は停止する。

 逮捕中又は刑務所でのあらゆる不当な取扱い、適法な理由なく行われるあらゆる不当な取扱い、 刑務所でのあらゆる課金及び分担金は、法律によって是正され、その機関によって抑止されるべき虐待である。

第20条 刑事裁判は、告発及び口頭によって行われる。公開性、対審性、集中性、継続性及び即応性の原則に従うものとする。

(A)一般原則:
 (I)刑事訴訟の目的は、事実を明らかにし、無実の者を保護し、罪を犯した者が処罰を免れることがないようにし、犯罪によって生じた損害を回復することである。
 (II)審理は全て裁判官の面前で行われるものとし、裁判官は、自由かつ論理的な方式で行われる証拠の調査及び評価を、いかなる者にも委任することはできない。
 (III)判決のために、公判の審理で提出された証拠のみが考慮される。法律により、その性質上、事前の提出を要する予見可能な証拠を公判で認めるための例外及び要件を定めるものとする。
 (IV)裁判は、その事件を過去に審理したことのない裁判官が行う。弁論及び証拠の提示は、公開、対審及び口頭で行われるものとする。
 (V) 有罪を立証する責任は、犯罪の種類によって定められる通り、検察官にある。当事者はそれぞれ、訴追又は弁護をするために対等の権利を有するものとする。
 (VI)裁判官は、この憲法に定める例外を除いて、常に対性審の原則を尊重し、訴訟の対象となる事項について、他方の当事者の出席なしで一方の当事者と協議することはできない。
 (VII)刑事訴訟が開始された後、被告人からの反論がなければ、法律の定める場合及び方式の下で、早期終了を命じることができる。被告人が司法機関の面前で、自発的に、その結果についても承知した上で、犯罪に関与したことを認め、その告訴を裏付ける十分な証拠がある場合、裁判官は、判決を言い渡す裁判に被告人を召喚するものとする。法律により、被告人がその責任を認めた場合に受けられる利益について定めるものとする。
 (VIII)裁判官は、被告人の有罪を確信した場合のみ、有罪判決を下すことができる。
 (IX)基本的権利に違反して取得された証拠は無効とする。
 (X)本条に定める原則は、公判前の審理においても遵守されるものとする。

(B)全ての被疑者の権利:
 (I)その事件の裁判官が下す判決によって有罪が宣告されるまで、無罪と推定される。
 (II)供述又は黙秘すること。逮捕された時から、その者は、逮捕の理由及び黙秘権について告知されるものとし、黙秘は、その者の不利益に利用されてはならない。隔離された拘禁、脅迫又は拷問は禁止され、刑法によって処罰されるものとする。弁護人の支援なしでなされた自白は、証拠能力を有しない。
 (III)逮捕時及び検察庁又は裁判官への出頭時に、起訴された事実及び権利について告知されるものとする。組織犯罪の場合、司法機関は、告発者の氏名及び詳細を秘匿することを許可することができる。
法律により、組織犯罪に関する犯罪の捜査及び訴追のために効果的な協力をした被疑者、被告人又は受刑者に付与する利益を定めるものとする。
 (IV)被告人が申請した証人及びその他の関連する証拠は審理され、法律によってそのために必要とみなされる時間が与えられ、法律の定める条件の下で、証言を依頼する者の出頭を得るための援助を受けることができる。
 (V)裁判によって公開の法廷で裁かれるものとする。公開が制限されるのは、以下の理由による、法律の定める例外的な場合に限られる。国家安全保障、公共の安全、被害者、証人及び未成年者の保護、法律で保護されている情報の開示が危険である場合、又は裁判所がそれを正当化する十分な理由があると認めた場合である。
組織犯罪において、捜査段階で行われた行為が裁判で再確認できない場合、又は証人若しくは被害者に危険が及ぶ場合、その証拠能力を認めることができる。これは、被告人が異議を申し立て、反証を提出する権利を損なうものではない。
 (VI)被告人は、自己の弁護のために請求することができる、訴訟手続で記録されるあらゆる情報を利用できるものとする。
被告人及び弁護人は、被告人が勾留され、又は尋問若しくは取調べを受けるときは、捜査記録を閲覧することができる。また、裁判官の前に初めて出頭する前であれば、弁護の準備のために適宜これらの記録を参照することができる。この時以降、捜査手続の秘密は保護されなくなる。ただし、捜査の成果を保全するために必要不可欠であり、弁護の権利に影響を与えないよう適時に開示される、法律で明示される例外的な場合を除く。
 (VII)被告人は、最高刑が収監刑2年を超えない犯罪の場合には4か月以内に、最高刑が収監刑2年を超える犯罪の場合には、弁護のためにより多くの時間を要求しない限り、1年以内に裁判を受けるものとする。
 (VIII)被疑者は、逮捕された時から、自由に選任する弁護士による適切な弁護を受ける権利を有する。弁護士を選任することを求められた後、弁護士を選任する意思がない、又は選任できない場合、裁判官が国選弁護人を選任するものとする。また、被告人は訴訟手続のあらゆる行為に弁護人を出頭させる権利を有し、弁護人は要求があれば何度でも出頭する義務を負う。
 (IX)いかなる場合にも、弁護士費用の不払い、その他の金銭の納付、民事上の責任又はその他の同種の理由のために、収監又は拘禁を延長することはできない。
公判前の勾留は、起訴された犯罪について法律の定める刑の上限を超えることはできない。また、その延長が被告人の弁護権の行使によるものでない限り、いかなる場合にも2年を超えることはできない。この期間が経過しても判決が宣告されない場合、被告人は、その他の予防措置の執行を損なうことなく、公判が始まるまで直ちに釈放される。
判決によって科された収監刑において、勾留された時間を算入するものとする。

(C)被害者の権利:
 (I)法律相談を受けること。憲法によって自己に有利に定められた権利について告知を受け、刑事訴訟の進捗状況について要望があれば通知されるものとする。
 (II)検察庁に協力すること。捜査及び公判のいずれにおいても、自己が有するあらゆる情報又は証拠を入手し、これに対応する手続きを実施させ、法律の定める条件の下で公判に参加し、上訴することができる。
検察庁は、手続きを実施する必要がないと判断する場合には、拒否の理由を示さなければならない。
 (III)犯罪が行われた後、緊急の医療及び精神的なケアを受けること。
 (IV)損害賠償。検察庁は、適切な場合には、被害者が直接請求することを妨げることなく、損害賠償を請求する義務を負う。裁判官は、有罪判決を言い渡した場合、受刑者に対し、損害賠償を免除することはできない。
法律により、損害賠償の判決執行のための迅速な手続きを定めるものとする。
 (V)以下の場合、被害者及びその他の個人の情報を保護するものとする。未成年者である場合、強姦、人身売買、誘拐又は組織犯罪の場合、及び裁判官の見解において保護する必要がある場合であり、全ての事件において弁護人の権利は保護される。
検察庁は、被害者、証人及び一般に刑事手続に関与する全ての者の保護を保障しなければならない。裁判官は、この義務の適切な遂行を監督するものとする。
 (VI)権利の保護及び回復のために必要な予防措置及び決定を請求すること。
 (VII)犯罪捜査における検察庁の不作為、及び損害賠償が履行されない場合の刑事訴訟の保留、不行使、却下又は停止の決定について、司法機関に不服を申し立てることができる。

第21条 犯罪の捜査は検察庁及び警察の任務であり、警察は、この職務の執行に際し、検察庁の指揮命令の下に行動する。

 裁判所における刑事訴訟は、検察庁が提起する。法律により、私人が司法機関において刑事訴訟を提起できる場合を定めるものとする。

 刑罰の執行、その変更及び期間は、司法機関の専属的な権限である。

 行政機関は、政府及び警察の規則違反に対する罰則の適用を所管し、その内容は罰金、36時間以内の逮捕又は社会奉仕のみとする。ただし、違反者が科された罰金を支払わない場合、罰金はこれに相当する逮捕に引き換えられ、その期間はいかなる場合にも36時間を超えてはならない。

 政府及び警察の規則に違反した者が日雇い労働者、労働者又は被雇用者である場合、その者の1日分の賃金又は給与を超える罰金を科すことはできない。

 給与所得者以外の労働者の場合、政府及び警察の規則違反に対して科される罰金は、1日分の収入相当額を超えてはならない。

 検察庁は、法律の定める場合及び条件の下で、刑事訴訟の遂行のための機会の基準を検討することができる。

 連邦行政府は、その事件毎に元老院の承認を得て、国際刑事裁判所の管轄権を認めることができる。

 公共の安全は、連邦、連邦構成体及びムニシピオが責任を負う国家の職務であり、その目的は、この憲法及び関連する法律の規定に従い、国民の生命、自由、健全性及び財産を保護し、公共の秩序及び社会平和の実現及び維持に寄与することである。公共の安全には、犯罪の予防、捜査及び訴追並びに行政違反の処罰が含まれ、法律の条件の下で、この憲法の定めるそれぞれの権限の範囲において遂行されるものとする。公安機関の行動は、適法性、客観性、効率性、専門性、誠実性、及びこの憲法で認められる人権の尊重の原則に服するものとする。

 国家警備隊を含む公安機関は、文民性、規律性及び専門性を有するものとする。

 検察庁及び3階層の政府の警察機関は、公安の目的を遂行するために相互に協力し、国家公安制度を形成する。国家公安制度は、以下の最低基準に服するものとする。:
(a)公安機関の隊員の選考、入隊、研修、定年、評価、表彰及び資格の管理。これらの活動の運用及び発展は、連邦、連邦構成体及びムニシピオが、それぞれの権限の範囲において責任を負う。
(b)連邦、連邦構成体及びムニシピオの責任の下での、国家公安情報システムの構築。法律に従い、公安を所管する機関を通して、この分野で入手可能な情報を提供するものとする。このシステムには、公安機関の犯罪データベース及び人事データベースも含まれる。正式な資格認定を受け、このシステムに登録された者でなければ、公安機関に入隊することはできない。
(c)犯罪の防止を目的とした公共政策の策定。
(d)コミュニティの参加を定めること。これは特に、犯罪防止政策及び治安機関の評価に資するものである。
(e)国家的な治安維持のための連邦補助金。連邦構成体及びムニシピオに交付され、この目的にのみ使用されるものとする。

 連邦は、国家警備隊と称する文民警察機関を有し、その目的は、本条第9段に定める事項、連邦構成体及びムニシピオとの連携及び協力、並びに国家の財産及び資源の保護である。

 法律により、国家警備隊の組織及び管理体制について定めるものとする。国家警備隊は、国家公安戦略、それぞれのプログラム、政策及び活動を策定する公安部門の事務局に所属する。

 国家警備隊及びその他の警察機関の隊員の訓練及び職務遂行は、社会貢献、規律、人権の尊重、法の支配、上官の命令、及び適切な場合には、ジェンダーの視点に基づく警察教義に従うものとする。

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