平成28年度愛知県公立高校入試(B)国語問4【漢文】
1 原文
貞観の初、太宗、蕭瑀に謂ひて曰はく、「朕、少きより弓矢を好む。自ら謂へらく、能く其の妙を尽くせり。近ごろ良弓十数を得、以て弓工に示す。工曰はく、『皆、良材に非ざるなり。』と。
朕、其の故を問ふ。工曰はく、『木心正しからざれば、則ち脈理皆邪なり。弓、剛勁なりと雖も、箭を遣ること直からず。良弓に非ざるなり。』と。
朕、始めて悟る。朕、弧矢を以て四方を定め、弓を用ふること多し。而るに猶ほ其の理を得ず。
況んや、朕、天下を有つの日浅く、治を為すの意を得ること、固より未だ弓に及ばず。
弓すら猶ほ之を失す。何ぞ況んや治に於てをや。」と。
(『貞観政要』より)
2 現代語訳
貞観の初め、太宗は蕭瑀に語って言われた。「朕は、若い頃から弓矢を好んだ。自分では、その極意を自分のものにできたと思っていた。近頃、良弓十数を得て、これらを弓の職人に見せた。職人は言った。『全て、良い材料ではありません。』
朕は、その理由を質問した。職人は言った。『木の芯がまっすぐでないときは、木目も全て曲がっております。弓がどんなに強く堅くても、矢はまっすぐ飛びません。良弓ではありません。』
朕は、初めて悟った。朕は、弓矢によって四方を平定し、弓を用いることが多かった。それなのにまだ、その理を習得していなかった。
まして、朕は、天下を治めてきた日も浅く、政治を行う上で根本となる精神を理解して自分のものにすることは、言うまでもなく未だ弓に及ばない。
弓でさえもその見方が誤っていたのだ。まして政治についてはなおさらである。」
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