命のろうそく。
1 命のろうそく
僕はアラフォーの中年のおっさんで、この年齢まで生きてきて改めて感じるのだけれど、命をろうそくの火にたとえるのは実によくできた比喩だと思う。・死神の名付け親(ウィキペディア)
田舎の実家では猫を飼い続けてきた。
交通事故で亡くなる場合はあっけないけれど、病気、老衰で亡くなるときの死に方は人間とほとんど変わらない。
人間の死に目に会うことは滅多にない。
ほとんどの人にとって人間の死に目に会う機会は、祖父母や父母などの家族くらいだろうし、僕もそうである。
しかし、当たり前のことだけれど、猫の寿命は人間の寿命より短いので、猫を飼い続けているとその死に目に会うことになる。
2 命のはかなさ
もうこれが何匹目なのか分からないくらい、猫を見送ってきた。猫だけではない。
アラフォーまで生きてきて、人生で少しすれ違っただけの知人も含めると、もう何人もあの世に先立っている。
祖父母等の親類、学校時代の恩師、職場の上司や先輩。
中には同級生や後輩が若くして亡くなったりすることもある。
何度か人間や猫の死に際を見る機会があったけれど、生き物が死ぬ間際は、本当にろうそくの火が消えるときのようだった。
ゆらゆらと炎が揺らめいたり、そうかと思えば揺らぎが収まって炎が安定したかと思えば、やはりゆらゆらと揺らめいて、そして最期には静かにふっと炎が消えてしまう。
炎が消えた瞬間に、魂があの世に瞬間移動したかのような印象を受ける。
3 死とは何なのか
少し前、ゾウリムシが崩壊するように死ぬ瞬間の動画を見て、少し驚いたし感動すらしたのだけれど、命が消える瞬間というのはゾウリムシですらはかなくて美しい。・【衝撃映像】ゾウリムシの仲間の単細胞生物が死滅する瞬間が凄すぎる・・・(edamame.)
スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学卒業式での有名なスピーチで、死を「生命の最高の発明」と述べた。
「それは生物を進化させる担い手。
古いものを取り去り、新しいものを生み出す。
今、あなた方は新しい存在ですが、いずれは年老いて、消えゆくのです。」
・「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳(日本経済新聞)
4 命とは何なのか
僕は20代の頃、大病で死にかけた。精神疾患なので、治ってしまえば見た目は普通の人と変わらない。
しかし、この病気が僕の人生に与えた衝撃は大きかった。
僕はこの病気以後の人生を、基本的に余生に過ぎないと思って生きてきた。
経験した人にしか分からない。
本当に死ぬほど苦しかったし、そこから生還して今こうして普通に生きていることが奇跡だとさえ、今も思っている。
臨死体験が人生観を変えるとはよく言われることだけれど、本当にその通りだと思う。
だからみんな一度は死にかけるべきだとは思わないけれど、病気や悩み事で自死を選ぶ人たちは、この臨死体験をすっ飛ばして死んでしまう。
神様は時に、非常に非情で、残酷だと思う。
5 人生とは何なのか
20代の頃の苦しみから生還したのは奇跡だったと今でも思っているので、死んだ後にもう一度同じ人生を経験したいかと神様から問われれば、僕は迷うことなく嫌だと言うと思う。この病気のせいで僕はもちろん、家族も相当悩んで苦しむことになった。
そして、僕自身と家族しかこの苦しみを共有しなかったので、それ以外の人たちはこのことを知らないし、知っていたとしても真実を何も分かっていない。
別に誰かに分かってもらいたいとも思わないけれど、この病気のせいで死にかけて悩み苦しんだことも含めて、僕の人生だったのだと今は思う。
命のろうそくの昔話によれば、命のろうそくが燃え尽きる前に、別のろうそくに炎を移せば生きながらえることができる。
僕は20代に死ぬはずだったのだけれど、誰か優しい人が炎を移す別のろうそくを僕に少し分けてくれたのだと、そんなことを眠れない夜などに思うこともたまにある。
僕が昔に比べれば少しばかり優しい人間になったのは、別のろうそくを分けてくれた人が、本当に心の優しい人だったからなのだろう。