培養肉の衝撃。
1 培養肉
培養肉という言葉は、日本ではまだそれほど認知されていないかもしれない。・ヤバすぎる!「培養肉ハンバーグ」の衝撃 肉の生産も消費も、根本から変わる(東洋経済オンライン)
このテクノロジーは、人間という種のあり方を変革するほどの可能性を秘めている。
しかし、日本に限った話ではないのだけれど、現時点では多くの人々に過小評価されている。
政治哲学、経済学、科学技術が交差するおもしろい学際領域なので、自分なりに考察してみたい。
最近、これに関する日清食品の研究開発がニュースになったけれど、さすが萬平さんの日清食品だと感動した。
・日清食品ホールディングス お知らせ 肉本来の食感を持つ「培養ステーキ肉」実用化への第一歩! 世界初 サイコロステーキ状のウシ筋組織の作製に成功
・連続テレビ小説「まんぷく」(NHK)
ちなみに、日清のカップヌードルの謎肉とは別物である。
未来に培養肉が謎肉になる可能性はあるけれど・・・
2 肉食う人びと
僕が学生の頃、『もの食う人びと』という本が売れていたのだけれど、ものを食べる、特に動物の肉を食べるという行為を突き詰めて考えると、哲学的な問題となる。
動物を殺して食べることは、残酷な行為ではないのだろうか。
食べるために動物を飼育し、殺すことは残酷な行為ではないのだろうか。
(食べるために)殺してよい動物と、殺してはいけない動物をどうして分類できるのだろうか。
植物も生物であるけれど、動物を殺してはいけないのであれば、植物もいけないのではないのか。
そもそも人間自体が生物なのに、人間を特別扱いして、動物、植物などのその他の生物と厳格に区別することができる理由は何なのだろうか。
3 宗教、思想、信条の問題
宗教によって、食べられるものと食べられないものがある。
豚を食べてはいけない宗教がある。牛を食べてはいけない宗教がある。
仏教ではそもそも、殺生は戒律で禁じられていたはずだ。
日本ではまだあまり広く認知されていないけれど、世の中にはベジタリアンやヴィーガンの人々がいる。
彼らはその信条によって、動物性食品の一部または全部を食べない生活をしている。
そういうことに無頓着な人は、頭が良すぎる人たちが原理主義に陥って、ベジタリアンやヴィーガンになると思っているかもしれない。
確かに彼らは頭がよいのだろう、彼らの信条をより深く理解するためには、ある著名な現代功利主義哲学者の主張に耳を傾ける必要がある。
4 ピーター・シンガー
ピーター・シンガーは著名な現代功利主義哲学者の一人である。
彼の『動物の解放』は有名である。
動物の権利や菜食主義の、正に思想的根拠となっている。
動物実験や工場畜産などに対する批判は、心優しい人々をベジタリアンやヴィーガンにするだけの力がある主張である。
こういうことに興味がある人には、『Animal Rights』という本をお薦めする。
僕は『動物の解放』を、翻訳本よりも英語版の方が安いと思って検索していて、たまたまこの本を見つけた。
動物の権利について、非常にコンパクトに分かりやすく解説されている。
動物の権利について考えることは、哲学の問題である。
5 TEDの動画
本を読む暇もない人もいると思うので、この問題を分かりやすく解説しているTEDの動画を紹介したい。
おもしろいし英語の勉強にもなるので一石二鳥である。
培養肉は英語で"clean meat"と言うらしい。
彼は工場畜産をいろいろな観点から批判している。
・工場畜産は、動物をまさに物として扱う虐待的な行為で、道徳的、倫理的に残酷である。
・工場畜産は、資源を浪費し、環境を汚染して人間にも有害な影響を与える産業である。
・培養肉というイノベーションが、解として有望である。
・殺して食べるために動物を飼育するのは、そもそも効率的な方法ではない。
6 夢のテクノロジー、画期的なイノベーション
培養肉は天才藤子・F・不二雄先生が、その黙示録で予言された科学技術の一つである。
培養肉というテクノロジーが実用化、普及して、価格が十分に低下すれば、人間が動物を物のように扱って利用することは許されるのかという、道徳的、倫理的問題を根本的に解決することができるかもしれない。
培養肉の方が、経済的にも環境的にもよく効率的なのであればなおさらだろう。
7 マンガや小説のネタ
人間が、食べるために殺される、あるいは何かに利用するために飼育されたり殺されるというストーリーの小説やマンガは多い。
注文の多い料理店、ミノタウロスの皿(藤子・F・不二雄)、わたしを離さないで(Never Let Me Go)、寄生獣、進撃の巨人、東京喰種トーキョーグール、食糧人類、約束のネバーランド・・・
みんな平気でフライドチキンを食べたり、焼き肉を食べたり、牛丼を食べたりしているけれど、そういうことを哲学的に深く考え出すと、不思議なワンダーランドへの入り口を見つけることができるかもしれない。
僕はもうこれ以上この問題に深入りするつもりはないけれど・・・なんともおぞましいワンダーランドなのである。