令和3年度第1回高認国語問5【漢文】
1 原文(書き下し文)
西門豹鄴の令と為り、清剋潔愨にして、秋毫之端も私利する無し。
而れども甚だ左右を簡にす。左右因りて相与に比周して之を悪す。
居ること期年、計を上るに、君其の璽を収む。
豹自ら請ひて曰はく、「臣昔者には鄴を治むる所以を知らず、今臣得たり。
願はくは璽を請ひ復た以て鄴を治めん。当たらずんば、請ふ斧鑕之罪に伏せんと。」
文侯忍びずして復た之を与ふ。豹因りて重く百姓に斂し、急に左右に事ふ。
期年にして、計を上るに、文侯迎へて之を拝す。
豹対へて曰はく、「往年臣君の為に鄴を治む。而るに君臣の璽を奪ふ。
今臣左右の為に鄴を治む。而るに君臣を拝す。臣治むること能はずと。」
遂に璽を納れて去る。
文侯受けず、曰はく、「寡人曩には子を知らず、今知れり。
願はくは子勉めて寡人の為に治めよと。」
遂に受けず。
(『韓非子』より)
2 現代語訳
西門豹は鄴の長官となり、清廉潔白で、誠実であり、ごく僅かも私利することはなかった。
しかし非常に側近をないがしろにした。側近たちは徒党を組んでて彼を悪く言った。
一年経って行財政の報告をするときに、君主は官印を取り上げ免職にした。
西門豹は自ら請い、次のように言った。「私は以前は鄴を治める理由を知りませんでした、今理解しました。
願わくは官印を請い、再び鄴を治めさせてください。できないのであれば、斬罪にしてください。」
文侯は堪えられずに再び官印を与えた。西門豹は百姓に重く徴税し、急に側近に従うようになった。
一年経って行財政の報告をするときに、文侯は迎えて彼に拝した。
西門豹は答えて言った。「昔は私は陛下のために鄴を治めました。しかし陛下は私の官印を奪いました。
今、私は側近のために鄴を治めています。しかし陛下は私に拝します。私はもう治めることはできません。」
官印を渡して下がった。
文侯はこれを受け取らず、言った。「余は以前は貴方を知らなかった。今知った。
願わくは貴方には勉めて、余のために治めてほしい。」
遂に受け取らなかった。