令和5年度第1回高認国語問5【漢文】
1 原文(書き下し文)
樹を種うる者は必ずその根に培ひ、徳を種うる者は必ずその心を養ふ。樹の長ずるを欲せば、必ず始生の時において、その繁枝を刪れ。
徳の盛なるを欲せば、必ず始学の時において、かの外好を去れ。
もし外に詩文を好まば、すなはち精神日に漸く漏泄して、詩文上に在りて去かん。
凡百の外好皆然り。
又曰はく、我のここに学を論ずるは、これ無中に有を生ずるの工夫なり。
諸公かならず信じ及んで、ただこれ志を立てよ。
学者一念善を為さんことをこれ志さば、樹をこれ種うるが如くせよ。
ただ助くることなく忘るることなく、ひたすら培植しもて去かば、自然に日夜滋長し、生気日に完く、枝葉日に茂らん。
樹の初生の時、すなはち繁枝を抽かば、またかならず刊落して、然る後に根幹能く大なり。
初学の時もまた然り。
故に志を立つるは専一を貴ぶ。
(『伝習録』より)
2 現代語訳
樹木を植える者は必ずその根を養い育てる。人格を育成する者は必ずその心を養い育てる。樹木の成長を望むのであれば、必ず成長するはじめのときに、多くなった枝を取り除きなさい。
徳の成長を望むのであれば、必ず学問のはじめのときに、外部への興味を捨てなさい。
もし詩文を好むのであれば、精神は日ごとに次第に漏れ出てしまい、詩の方に移ってしまうだろう。
あらゆる外部への興味は全てそうである。
また、次のように言われた。私がここに学問を論じるのは、無中に有を生じる工夫である。
君たちは必ずこれを信じて、ただ志を立てなさい。
学問をする人は一念善をなさんと志を立てたら、樹木を植えるようにしなさい。
ただ助けることなく忘れることなく、ひたすら養い育てれば、自然に日夜成長し、生気は日ごとに充実し、枝葉は日ごとに茂るだろう。
樹木の成長するはじめのときに、多くなった枝が伸びてきたら、また必ず切り落として、然る後に根幹はよく太くなるのである。
初学のときもまた、そのようなものである。
よって志を立て、他のことを考えずにただ一つのことに心を注ぐことが大切なのである。
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