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平成27年度第2回高認国語問3【古文】

1 原文

 三人各郷土を棄てて、一樹の下に至り会へり。相共に同宿せり。時に一人問ひて云はく、汝等は、何なる人の、何の処より去りて、何の国より来れるや、と。皆、互ひに問ひ答へて云はく、生活せむが為に家を離れて東西するのみ。
吾等三人各三世の因感有りて、一樹の下に宿れり。故に断金の契を結びて、全く永代の眤びを期せむ。其の長けるをば父と為し、小年なる二をば兄弟と為す。桂蘭の心恒に芳しく、膠漆の語ひ弥深し。財を求め得ては、彼此を別たず、父に孝養すること猶骨肉に踰えたり。
 爰に父、子等の心を試みむと欲て、二の子に語りて云はく、我河の中に舎を建て、以て居処と為む、と。二の子教へを奉じて土を運び、河を塡めて、入る毎に漂流して波浪に溺る。三年を経と雖も塡め作ることを得ず。爰に二の子吟きて云はく、我等不孝と成りぬ。父の命に叶はず。海中の玉豈誰が為にかせんや。世上の珎復誰の為ならんや。未だ小さき舎を造らず。我等人と為むや、と。
憂歎して寝ねたる夜の夢に、一人有り、壌を持ちて河の中に投ぐと見る。明旦に之を見るに、河の中に土を塡むること数十余丈、屋を建つること数十宇なり。之を見聞く者、皆共に奇しみて云はく、大いなるかなや。孝養に天神感応して河の中に岳を為りて、一夜に舎を建てて父をして安置せしむ、と。天下に之を聞きて嘆思せずといふこと莫し。
其の子終に生長して五位と為り、二千石と名づく。食口三十有余、三州を以て姓と為す。夫れ親父に非ずと雖も、丹誠を至さば神明の感近く在り。況んや骨肉をや。
(『注好選』より)

2 現代語訳

 三人はそれぞれ郷土を捨てて、一樹の下に至り、会うことになった。共に同宿した。時に一人が質問して言うには、あなた達は、どのような人間で、どのような場所から去り、どの国から来たのですかと。皆、互いに質問し、答えて言うには、生活する為に家を離れてあてもなく放浪しているだけですと。
私達三人にはそれぞれ三世の宿縁が有り、一樹の下を宿とした。故に断金の契りを結び、全く永代の親しい交際を誓おう。その年長の者を父とし、若い二人を兄弟とした。桂蘭の心は常に芳しく、膠漆の語らいはいよいよ深まった。財を求め得た場合は、あれこれ分けてそれぞれ自分の物とすることなく、父へ孝養は血のつながった親へのそれを超えるものであった。
 ここで父は、子達の心を試したいと思い、二人の子に語って言うには、私は河の中に家を建てて、それを居所としたいと。二人の子は教えを守って土を運び、河に沈め、入る度に漂流して波浪に溺れた。三年が経っても埋め立てることができなかった。ここで二人の子が嘆いて言うには、私達は不孝をしてしまった。父の願いを叶えられなかった。海中の玉は誰の為のものであろうか。世の中の宝物は誰の為のものであろうか。未だに小さな家を建てることもできない。私達は人と言えるだろうかと。
憂い嘆いて寝た夜の夢で、一人の者が、土を持って河の中に投げるのを見た。明け方に河を見ると、河の中に沈められた土は数十余丈、建てられた家は数十軒であった。これを見聞きした者は皆、共に不思議に思って言うには、大いなることである。天の神様が子達の孝養に動かされ、河の中に岳を作って、一夜にして家を建て、父をそこに住まわせたと。天下においてこれを聞き、感動しない者はいなかった。
その子達は成長して最終的に五位となり、地方長官に任命された。家族・親族は三十人余り、三州をその姓とした。血のつながった父親でなくても、真心を持って孝養すれば神様のご利益がある。血のつながりがあれば尚更であろう。

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