令和7年度愛知県公立高校入試国語問4【古文】
1 原文
武士のもとに、力強くして矢をはしらかし、物を強く射さする弓あり。主の武士これを愛し、是ををしみて、重き宝と思へり。
ある人、この弓をとりて、矢を矧げてひかんとするに、強くしてひくにあたはず。
かるがゆゑに、おとをも射ず、物にも強くも立たず。
是がやうに、力ある人は堂塔をもつくり、法花・真言をもつとめおこなふべきなり。
力なきわれらは、念仏の弱弓をもて射ば、おのづから射当つる事も有るべし。
たとへば、玄象と云ふ琵琶は、ひかんとすれば手をきらひてならず。
ひきならはしたる琵琶をもて、おのづから心すみておもしろきがごとし。
念仏の功徳も又々、かくのごとし。
(『宝物集』より)
2 現代語訳
武士のもとに、力強く矢を遠く飛ばし、物を強く射ることができる弓があった。持ち主の武士はこれを愛し、大切にして、大事な宝物だと思っていた。
ある人がこの弓を持って、矢を弓のつるにかけて引こうとしたけれど、強くて引くことができなかった。
だから、音を立てて射ることもできず、物を強く射ることができなかった。
このように、力がある人は寺院の堂や塔をつくり、法華宗や真言宗の修行をすることができるに違いない。
力がない私たちは、念仏のような誰でも扱える弱い弓で射れば、自然と射当てることもあるだろう。
たとえば、玄象という琵琶は、弾こうとしても十分な技量がなければ音を出すことができない。
弾き慣れた琵琶を弾けば、自然と心が澄んでおもむき深く感じるようなものである。
念仏の功徳もまた、このようなものである。
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