道元禅師と弟子の逸話。
1 正法眼蔵随聞記
道元禅師とは、鎌倉時代の禅僧、日本における曹洞宗の開祖である。曹洞宗とは、日本仏教における禅宗の一派である。
正法眼蔵とは、道元による仏教思想書であり、曹洞宗を知る人は読んでいなくてもその名前だけは知っているくらいに有名な書物である。
正法眼蔵随聞記とは、道元禅師の弟子で、永平寺2世である孤雲懐奘による道元禅師の法語をまとめた語録書である。
何故今回、正法眼蔵随聞記について言及したかというと、下記の道元と弟子の有名な逸話の正確な出典が、ネットで調べた限りではよく分からなかったからである。
ただ、この逸話に近い話は、正法眼蔵随聞記の中にあるらしい。
そういう訳で、下記に道元と弟子の有名な逸話を引用するけれど、出典の記載がないのはそういう理由です。
2 道元と弟子の逸話
ある時、弟子が師の道元に聞いた。「人間は皆仏性を持って産まれていると教えられたが、仏性を持っているはずの人間になぜ成功する人としない人がいるのですか。」
「教えてもよいが、一度は自分でよく考えなさい。」
道元の答えに弟子は一晩考えたがよく分からない。
翌朝、弟子は師を訪ね、ふたたび聞いた。
「昨晩考えましたが、やはり分かりません。教えてください。」
「それなら教えてやろう。成功する人は努力する。成功しない人は努力しない。その差だ。」
弟子は、ああそうか、と大喜びした。
だがその晩、疑問が湧いた。
仏性を持っている人間に、どうして努力する人、しない人が出てくるのだろうか。
翌日、弟子はまた師の前に出て聞いた。
「昨日は分かったつもりになって帰りましたが、仏性を有する人間に、どうして努力する人、しない人がいるのでしょうか。」
「努力する人間には志がある。しない人間には志がない。その差だ。」
道元の答えに弟子は大いに肯き欣喜雀躍家路につく。
しかしその晩、またまた疑問が湧いた。
仏性のある人間にどうして志がある人とない人が生じるのか。
弟子は四度師の前に出て、そのことを問うた。
道元は言う。
「志のある人は、人間は必ず死ぬということを知っている。志のない人は、人間が必ず死ぬということを本当の意味で知らない。その差だ。」
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