夏休み自由研究レポート(前編):宇宙際タイヒミュラー理論の解説書と入門書の感想文。
1 宇宙際タイヒミュラー理論とは?
今回の記事は、夏休み自由研究のレポートです。・夏休み自由研究:宇宙際タイヒミュラー理論について。:https://tanakah17191928.blogspot.com/2022/08/blog-post.html
(From いらすとや)
『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(以下、「解説書」という)はすばらしい本だけど、IUT理論そのものの数学的説明がかなり省略されている。
それを自分なりに勉強してみた。
私の数学力では理論を数学的に厳密にフォローすることはできないので、入門書を斜め読みして概要を理解するところまで進めたい。
2 解説書
そもそもIUT理論は、数体の「頑強な」構造のために、局所理論から大域理論を直接的に構築することができないという障害を克服するために生まれた理論である。無限個の素点を束ねて議論し、それを対称性により数体全体に拡張したい。
しかし、その行為には困難な問題が内在している。
まず、それは「正則構造」を破壊してしまう。
まず、それは「正則構造」を破壊してしまう。
また、たし算構造とかけ算構造が大域的に「つながる」ように、素点間の同期がなされなければならない。
要するに、数の構造を一度バラバラにして、また作り直すという壮大な理論である。
(解説書286-288ページ)
3 入門書
入門書の概要だけでも把握しておきたい。・宇宙際 Teichm¨uller 理論入門(星裕一郎)(以下、「入門書」という)
(1)全体像
あるディオファントス幾何学的定理を証明するためには、
(a)対数殻、
(b)楕円曲線の$q$パラメータの($1$より大きい)ある有理数による巾、
(c)数体
という3つの対象の多輻的な表示の存在を証明すれば充分であると、IUT理論は主張する。
(b)楕円曲線の$q$パラメータの($1$より大きい)ある有理数による巾、
(c)数体
という3つの対象の多輻的な表示の存在を証明すれば充分であると、IUT理論は主張する。
しかし、これらの多輻的な表示を得るためには、「設定の環構造を放棄する」ことによって発生する不定性から、(b)と(c)を防護・隔離する必要がある。
よって、(b)に対してテータ関数、(c)に対して「$\kappa$系関数」が用いられることになる。
そして、(a)が(b)と(c)の「入れ物」となる。
(入門書3-4ページ、99ページ)
そして、(a)が(b)と(c)の「入れ物」となる。
(入門書3-4ページ、99ページ)
(2)「正則構造」
解説書にあった「正則構造」の破壊とは、「設定の環構造を放棄する」ことだろう。IUT理論における「正則構造」とは、「環構造そのもの、環構造を含んでいる、環構造を復元できてしまう、あるいは、環構造から本質的に規定されている構造」を意味する。
(入門書18ページ)
IUT理論で重要なのは遠アーベル幾何学である。
様々な環構造を放棄せざるを得ないが、適当な絶対ガロア群は通用するという設定において、ある非自明な帰結を導くという展開になる。
「少なくとも筆者は、そのような状況においても、まだなお充分に適用が可能であるような数論幾何学の研究分野を、遠アーベル幾何学の他に知りません。」
(入門書20ページ)「少なくとも筆者は、そのような状況においても、まだなお充分に適用が可能であるような数論幾何学の研究分野を、遠アーベル幾何学の他に知りません。」
(3)「多輻的アルゴリズム」
多輻的アルゴリズムとは、「コア的データの同一視/共有」と両立する形で「同時実行可能」なアルゴリズムである。
「多」数の上部「輻」的データに同時に適用可能、「多」数の上部「輻」的データに対して同時に意味を持つ。
(入門書25ページ)
(4)ホッジ劇場
$D$-$\Theta^{\pm\mathrm{ell}}$Hodge劇場や$\Theta^{\pm\mathrm{ell}}$Hodge劇場は、テータ関数、その代入点のラベル管理、その特殊値(つまり(b))のための「入れ物」(最終的には(a)となる)のための設定だと考えられる。
・その(c)と
・($D$-$\Theta^{\pm\mathrm{ell}}$Hodge劇場や$\Theta^{\pm\mathrm{ell}}$Hodge劇場におけるテータ関数への「代入」という操作を行うことによって得られる)(a)や(b)との間の関連付けのための設定だと考えられる。
(入門書100-101ページ)
加法的/幾何学的な対称性をもとに構成された$D$-$\Theta^{\pm\mathrm{ell}}$Hodge劇場や$\Theta^{\pm\mathrm{ell}}$Hodge劇場と、乗法的/数論的な対称性をもとに構成された$D$-$\Theta \mathrm{NF}$Hodge劇場や$\Theta \mathrm{NF}$Hodge劇場を貼り合わせることで得られる概念が、$D$-$\Theta^{\pm\mathrm{ell}} \mathrm{NF}$Hodge劇場や$\Theta^{\pm\mathrm{ell}} \mathrm{NF}$Hodge劇場である。
そして、2つの$\Theta^{\pm\mathrm{ell}} \mathrm{NF}$Hodge劇場を対数リンクによって結び付けることで、ある単数的乗法的加群を(a)というコンパクトな加法的加群に変換することができる。
また、対数リンクの無限列から生じるフロベニウス的対数殻の対数写像による関係の無限列とそれぞれフロベニウス的対数殻とエタール的対数殻の間のクンマー同型の総体である対数クンマー対応を考えなければならない。
(入門書4ページ)