平成28年度愛知県公立高校入試(A)国語問4【古文】
1 原文
唐土の召公奭は周の武王なり。成王の三公として、燕といふ国をつかさどりき。むかしの西の方を治めし時、ひとつの甘棠のもとをしめて政を行ふ時、司人より始めてもろもろの民にいたるまで、その本をうしなはず、あまねく又、人のうれへをことわり、重き罪をもなだめけり。
国の民こぞりてその徳政をしのぶ故に、召公去りにし跡までも、かの木を敬ひてあへて伐らず、歌をなんつくりけり。
後三条天皇、東宮にておはしけるに、学士実政任国におもむく時、「国の民たとひ甘棠の詠をなすとも、忘るることなかれ、多くの年の風月の遊び」といふ御製を給はせたりけるも、この心にやありけん、いみじくかたじけなし。
(『東関紀行』より)
2 現代語訳
中国の召公奭は周の武王である。成王の三公として、燕という国を治めた。かつて西方を治めたときに、一つの甘棠の下に座って政を行ったが、役人から諸々の庶民に至るまで、その生活を立てるための仕事を失うことなく、広く、人の訴えを公平に裁き、重罪をも許してやった。
国の民はこぞってその徳政を偲んだために、召公が亡くなった後も、その木を敬い敢えて伐ることなく、歌を作ったということだ。
後三条天皇が皇太子でいらっしゃったときに、学士実政が国司として任命された国へ赴任する際に、「国の民がたとえ甘棠の歌を作っても、忘れてはいけません、長年ともに楽しんだ風月の遊び(自然の美しい風物に親しんで詩歌を作ること)を」という自らお作りになった詩をお与えになったのも、この心であったのでしょうか、本当にありがたいことである。
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